星空の家路

日記

「拘束時間、エグくないですか?」

乗客から度々受ける質問。タクシーの勤務形態について説明すると必ず聞かれるものだ。

日勤、夜勤、隔日勤務という3つの勤務形態があるが、僕が働いているのが隔日勤務。1日働いて1日休むようなもの。

朝7:30に出勤して、夜中の2時とかに車庫に帰る。休憩がその中に3時間含まれて、合計の拘束時間は18時間程度。ただしその次の日は明け休みとなる。

2日分の仕事を一気にこなす代わりに、アフター5(要するに帰宅後のリラックスタイム)も2日間分まとめてやってくるイメージだ。

図にするとこんな感じ。

だから、家に帰りつくのは午前3時とかになる。そんな時間に出歩いている人なんてそう多くは無いわけで。

これが親不孝通りや中洲、大名みたいな人が集まる場所ならともかく、南北に長い早良区の山側。高層マンションが並ぶ百道浜のようなエリアと同じ「早良区」を名乗るにはさすがにおこがましいのではと思うほどに、そびえるのは山ばかり。

探せばまあありますけども。四箇田団地や次郎丸団地、あとはモノリスの如く一棟だけ構えている歯科大やら。

ここらでは高い建物の方がマイノリティなわけで。

家から出て左に30m歩けば田んぼ、右に30m歩けば珍妙な形をした飯盛山を拝むことができ、運が良ければそこら辺でタヌキやアナグマと出会える。

以前のブログで紹介した「昔の航空写真地図」というアプリで今住んでいる家の場所を見てみると、紛うことなき田んぼ。

普段行くスーパーも、いま来ている整骨院も、ぜーんぶもれなく田んぼ。

そんなところに、僕らは住んでいる。

だから僕が家路に着く午前3時なんて誰も出歩いていない。天気が悪ければ車、そうでなければ自転車通勤。どちらにしても夜中の退勤は好きだ。

前職で夜中2時まで残業になったときはブチギレながら帰ったが、今の仕事に就いてこれが日常となれば、それはそれで楽しむことができている。人々が寝静まっている世界で一人だけ起きている。修学旅行でみんなが寝静まった中で起き出して窓の外を眺めているような、ちょっとしたお得感がある。

車なら周りに車がいない道路を独り占めできる。特に先日やってきた新しいMAZDA2の、クラッチ加減に慣れるための調整なんかにはありがたい。

自転車であれば、静まり返ったなかにも微かに人の生活を感じられる。

早朝の配達の準備をする新聞屋さん。

福岡名物とも言われる夜間のゴミ収集。

同じ時間にランニングをしているおじさん。

スナックから聞こえてくる、シラフでは聞くに耐えないカラオケの声。

自転車通勤には、車では感じられなかった街の営みを感じられる良さがあるのだと思った。

 

信号待ちで見上げる夜空も醍醐味の一つ。その日を振り返りつつ見る星空は格別だ。

運転手を気遣ってくれる優しいお客さん、悪態ついて苛立たせてくるクソ客、他にもいろいろいるけど、まあ今日も事故らず終われてよかった。仕事から帰って思うことなんて、毎度同じだ。

そして家に着いたら禊が待っていてくれる。風呂に入り、少しだけ飲みながらその日のことについて話して寝る。起きたら日が昇っていて、明け休みが来る。

起きたら洗濯物を干してから昼ご飯の材料を買ってきて、料理ができたら禊を起こして食べる。

僕の日常はこんな感じだ。

人生における万事がうまく運んでるとは到底思い難いが、それでもこんな日常が1日でも多くそばにあればと思う。

「運転手さんって、やっぱり個タク目指してるの?」

これも乗客からよく聞かれる。個人タクシーになるには、10年間(年齢によって異なるらしい)の法人タクシー経験と直近3年間の無事故無違反をクリアして初めて、受験資格を得る。そこから地理試験だのなんやかんやの難関が待ち受けていて、その全てを突破した先に栄えある個人タクシーの称号を手に入れることができる。(と聞いている)

今のところ考えてはいないものの、「こんな日常」をあと10年守り抜いた暁には悪くないのかもしれない。だけどそれはまた別の話。

今はこの日常を守るだけで、精一杯だ。

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