【ひやむぎ回顧録】月見バーガーと変なステップ

日記

前職経理時代の話。

秋晴れの土曜日。デスクでご飯は食べたくない、だけどお店は混んでいる。そんな中で思いついた「月見バーガーを買って近所の公園で食べよう」というアイデア。

ルンルン気分で公園に向かったひやむぎに思わぬ刺客が…。

これは数年前の9月のある日の出来事。当時ひやむぎは経理末端部署の一員としてしたくもない伝票作業、経理部本体にのっぺり座る女帝から降ってくる幾多の雑務、来客対応になんやらかんやらととかくあくせく働いておりました。

そんな社畜戦士ひやむぎの心を癒す貴重な時間が、ランチタイムです。その日ひやむぎはいつになくルンルンでお昼休憩に入りました。なぜかって?大好きな大好きな月見バーガーが販売開始になったから。

これを食べないとひやむぎに秋は来ないと言っても過言ではありません。

そういえば空がだんだんと秋めいてきた気がする。

家から出たところには真っ赤なヒガンバナが咲いていた。

長ズボンで出歩いても汗をかかなくなった。

どこからかヒグラシの鳴き声が聞こえるようになった。

夜になれば秋の夜長をコオロギ合唱団が彩るようになった。

昼間はまだまだ暑いけれど、確かに少しずつ夏の終わりが近づいてきている。暑さが和らぎホッとするような、それでいてなんだか寂しいような気がしている。

秋が近づく風物詩の中で僕が一番心待ちにしているもの。

それがマクドナルドの「月見バーガー」なのです。

「月見対決の勃発」と話題に。マック、モス、ケンタ、コメダ、ロッテリアの期間限定商品とは?
それぞれどんな月見シリーズでバトルを繰り広げているのだろうか。

マックのイメージが強かった月見バーガーだけど、実はハンバーガーチェーン各社が出しているらしい。これを制覇するのもまた一興と思うが、実家に行くたびに母に叩かれる腹のことを思うとあまり実行には移さないほうがいいのかもしれない。

何はともあれ、月見バーガーが出たということは秋が来たということですよ。

そして月見バーガーが出ると思い出すことがもう一つ、スズメバチです。

月見バーガー✰Aクイック

確かあれは2年前の11月だったと思う。まだ禊とは知り合ってもいなかったからおそらくそれくらいだろう。

月見バーガーの発売日、この日は仕事だった。ちょうど秋めいてきたし空は雲一つない快晴。

月見バーガーをテイクアウトして、公園で食べよう。仕事で鬱屈としたひやむぎの気分もきっとこの空と同じくらい晴れやかなものになるだろうと思った。

その後繰り広げられる死闘なんて、知る由もなかった。

12時を回った。早速マクドナルドに向かい、お得意のクーポンで月見バーガーセットを購入。公園に向かう。

適当なところに腰掛けて袋を開ける。紺色の包み紙に書かれた「月見」の文字に心が躍る。うまい。いつものハンバーガーに目玉焼きとベーコン。このベーコンが結構いい仕事するんよね~。

なんて思いながら1/3くらい食べたところで。

ぶおんっ!

耳元をそんな音がした。何が起きたかわからずキョロキョロとあたりを見回すひやむぎ。特に変わった様子はない。カナブンでも通り過ぎたんだろうか。マンションの廊下とかで見かける緑色のあいつ。まるっこいフォルムでよちよち歩く愛らしいあいつ。

カナブンも暑さがひと段落したから元気になっているんだろうな。秋っていいな。

さあ月見バーガーの続きをば…。

ぶおんっ!!

いくらカナブンが好きでもひやむぎ怒っちゃうよ!食べさせてよ!と顔を上げる。

そこにいたのは緑色のあいつではなく、踏切カラーのあいつだった。

踏切カラーの小型戦闘機が月見バーガーの上空15cmでホバリングしている。めっちゃ目が合った。

スズメバチだった。

真正面にホバっているそいつ。10秒間ぐらいだったかもしれないし、3分くらいだったかもしれない。とにかく目を逸らすことが許されない緊迫した沈黙が両者の間に流れた。

”Hey, can I get you?(覚悟はいいかい?)”

とでも言いたげに、嘲笑するかのように、特徴的な楕円形の黒い目で見つめてくる。

そして顔面目掛けて真っすぐに向かって突っ込んできた。まるで特攻隊である。

咄嗟の判断でイナバウアーをして避ける。上下が反転した視界の中に、旋回したやつの姿をとらえた。ヤバい、戻ってきよる。

その後も座った状態でクネクネ避け続けた。

傍から見たら相当変なやつだったに違いない。傍らにマクドナルドの袋を置いて、手には月見バーガー。そんなどこにでも居そうなやつが土曜日の昼さがりに左右に体をくねらせているのだ。

でもそんなことを気にしている暇はない。昼飯、というよりこの場合は我が命すらかかっている。最後の晩餐が月見バーガーだったら僕は成仏できない!

なかなか諦めてくれないスズメバチ。しょうがない、一時退却!袋を手に取り立ち上がり早足で…。

えぇ!まだ追っかけてくるやん!!!!!!!!

こうなるともう何が何だかわからない。向かってくるやつをありとあらゆる方法で避ける。

傍から見たらさらに変な奴だったに違いない。左手にマクドナルドの袋を提げ、右手に月見バーガーを持っている。そんな身長183cmの電柱みたいなやつが絶妙にキモいステップを踏んでいるのだ。

キング・オブ・ポップと言われるマイケル・ジャクソンにも踏めない意味不明なステップを、土曜日の昼下がりの公園で必死に刻んでいる光景。

3歩ダッシュ、2歩下がる。左にサイドステップ。

やつは右手に向かってくる。

走馬灯のように部活時代の光景が流れる。あれは春高バレーの予選だったか、セッターのU君がきれいなトスを上げてくれる。相手のブロックはついていない。渾身の力できれいなAクイックを敵コートに叩き込む。

気が付くと、月見バーガーの醤油ソースにまみれたスズメバチが地に伏していた。信じられないことに、Aクイックを撃ったのだ。スズメバチに。しかも月見バーガーで。

運よく敵の脳天を直撃したようで気を失ったようだった。

助かった。月見バーガーの半分を犠牲になったが。昼ご飯は残されたポテトでしのぐしかあるまい。

醤油党スズメバチ

目を覚ましたスズメバチが他の人を襲ってはまずいと思い、申し訳なく思いながらもスニーカーで踏んづけてからその場を去った。

その後調べてみると、スズメバチは醤油の匂いにつられやすいのだとか。秋になり野外でBBQを楽しんでいるところに飛んできて刺されて病院送り、というのは割と珍しくないらしい。

今回は月見バーガーの醤油ソースに誘われたんだろう。彼はひやむぎを刺したいのではなく月見バーガーを味わいたいだけだったのかもしれない。そう思うとさらに申し訳ないことをした。

すまない、許してくれ。最後の晩餐が月見バーガーになってしまったのはスズメバチのほうだった。しかも失神する直前に顔面に付着したソースだけ。ハチこそ成仏できんであろう。

来世ではぜひ人に転生して、月見バーガーを味わってほしい。

読者諸賢においては、あまり外で醤油味の強い食べ物を食すのは控えてほしい。

Aクイックで勝てたのはたまたまである。良い子も悪い子も、マネはなさらぬよう。

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